病気や事故で体が不自由になる。それは、人間のみならず犬や猫などのペットも同じだ。そんな動物たちの行動範囲を広げ、不自由さを軽減させるため、義肢やコルセット、サポーターなどの装具を作っているのが、動物義肢装具士の島田旭緒(あきお)さん(38才)。一匹一匹に合わせた装具を作るため、日夜、試行錯誤を積み重ねる島田さんの作業現場を訪ねた。
◆動物用義肢装具の中で唯一無二の存在
動物向けの義肢装具がないことに、島田さんが気づいたのは、18年前のこと。人間の義肢装具を作るために、福祉関係の専門学校で学んでいた頃だ。
「もともとは、体に障害を持つ祖父のような人のために義肢を作りたくて専門学校に通っていたんです。でも、学校で課題に取り組む中、動物用の義肢がないことにふと気がついて…」(島田さん・以下同)
卒業論文のテーマを動物用の義肢装具に決めた島田さんは「動物の義肢は必要ですか?」というアンケートを、動物病院50軒と飼い主200人に実施。9割近くが「必要」と答えた。
「そもそも義肢装具の歴史自体が浅く、人間の義肢装具ができたのも1988年のこと。動物の世界で義肢装具がなかったのは、昔『犬や猫は放っておいても生きているもの』と、ややなおざりにされていたからかもしれません。
ただ、10年くらい前のペットブームにより、ペットにお金をかける人が増え、医療の進歩と相まってペットも長寿になった。それで人間同様、足腰が立たなくなったり、首を傷めることも増え、動物用義肢装具が必要になってきたのです」
島田さんは専門学校卒業後、人間の義肢装具を製作する会社に就職。並行して動物用の義肢装具の研究を進めていく。そんなある日、知人が飼っていたチワワが事故に遭い、背骨を骨折してしまう。
「知人に付き添って行った動物病院の先生が、布団を固定してコルセットを自作されていたんです。それを見た時に、動物用の義肢装具は必要だとはっきり感じ、自分でも作ってみることにしました」
そこから島田さんの挑戦が始まる。この時知り合った獣医師に教えを請い、平日は人間用の義肢装具士として働き、土日は動物用の義肢装具の開発に精を出した。
そして12年前、動物専用の義肢装具会社を設立した。
「最初はほかの獣医師から冷たい態度を取られていました。こんな医学的根拠のないものは怪しいと言われたこともあります。そんなこともあり、当初は収入がほぼゼロ。仕事が入っても1〜2件で1か月の収入が2万円なんてことが1年ほど続きましたね」
それでもめげず、獣医師が集まる勉強会にも頻繁に顔を出し、動物義肢装具の必要性を訴え続け、獣医学も学ぶ中、’15年に獣医師の学会で発表の機会を得るなど、少しずつ認められるようになっていく。
◆体形に合わせて一つひとつ手で作る
装具作りは、まず獣医師から依頼を受け、症状などの説明を聞くことから始まる。
「椎間板ヘルニアの補助器具など、ある程度、形が決まっているものであれば、獣医師が計測したサイズに基づいて補助具を作ります。でも、複雑な骨折や義足の場合は、会いに行くことが多いですね」
たとえば、足が変形している場合、どのような状況でそうなったのか、どんな状態なのかを細かく聞き、どんな義肢装具が必要かを想定。その後、作業に入る前に会って計測を行い、左記のような手順で進めていく。
依頼の9割が犬で、残りは猫やフェレット。病気の多くは椎間板ヘルニアなどの脊椎疾患だ。
「犬は人間と同じような病気やけがをするのに、痛みや不便を細かく訴えることはできません。獣医学の本には、椎間板ヘルニアは、ケージにタオルを敷き詰めて犬を入れ、固定させるという治療法しか書かれていません。それでは犬は身動きができずにつらそうだし、そんな姿を見た飼い主もつらい。
そこで、ぼくはコルセットを作ったのですが、これなら動きは制限されるものの排泄もできるし、着脱可能で洗濯もできます。そして何よりある程度、歩くこともできるようになりました」
義肢装具を装着し、動物が歩き出す姿を見ると、飼い主も安心するという。
【Profile】島田旭緒さん(38才)/東京都町田市で12年前に動物用義肢装具メーカー『東洋装具医療器具製作所』を立ち上げ、年間3000件以上、これまでに2万匹におよぶペットの義肢装具を製作している。