災害で被災するのは人だけではない。身近で家族同然に愛されているペットも被災し、近年の災害では、動物が苦手な避難者との共存なども課題になっている。ペットを連れた避難のあり方について、関係者は日ごろの訓練や事前検討の重要性を指摘している。【川瀬慎一朗】
ペットの避難対策に取り組んでいる岐阜市のNPO法人「人と動物の共生センター」によると、近年の災害時の避難所では「ペットフードの支援がなかった」「毛の飛散などで他の避難者とトラブルになった」など、ペットに絡む問題が発生している。
◇同行して、避難所で違い
環境省は東日本大震災で飼い主とはぐれたペットが続出したことを受け、2013年にガイドラインを策定。
飼い主とペットが安全な場所まで一緒に避難する「同行避難」を原則とした。ただし、動物が苦手な避難者に気配りし、避難所運営に当たってはこうした避難者がペットと一緒にならないよう配慮すべきだと規定。また「ペットの飼養環境は避難所によって異なる」とし、避難所運営の詳細は自治体や地元自治会などに任せている。
岐阜県羽島市の竹鼻南地区はペットの避難方針が未定だったが、住民アンケートで約3割の世帯がペットを飼っていることが判明。
住民や避難所となる中学校と検討を重ね、17年に地震や洪水など災害別にペットの避難場所を決めた。しかし、ペットの具体的な扱いが明確になっていないケースは多い。「人と動物の共生センター」が16年に岐阜市の自治会連合会を対象に行った調査では、避難所開設時にペットの処遇を決めている地区は約5%にとどまった。
一方、名古屋市では市内の指定避難所のうち市立小中学校を原則、ペットと同行避難ができる避難所に規定。避難した飼い主にペット登録台帳への記入を求め、避難者と同室にペットを連れて行かないよう配慮するといった「ペットの飼育ルール」を周知するよう定めている。
市地域防災室の担当者は「互いに助け合う共助ができればいいが、動物アレルギーの避難者がいたりする場合など、ペットを受け入れられないこともある。ペットホテルや遠方の親族を頼るなど、日ごろからペットの避難先候補を複数考えてほしい」と話す。
◇日ごろから準備を
「最寄りの避難所がペットを受け入れてくれるかどうか、知っていますか」——。NPO法人「人と動物の共生センター」は、ペットサロン業者や飼い主ら向けに災害への心構えを説く講座を随時開催している。
同センターは昨年度、防災面での飼い主への注意点など20項目を列挙したチェックシート「減災教室 ペット編」を作成。3月に岐阜市内で行われた講座では、同センターで防災委員長を務める渡辺英毅さん(47)がチェックシートの「キャリーケースの中で(ペットを)落ち着いて休ませることができますか」との項目に触れ、「普段からキャリーケースに入れる事に慣れていないと、災害時にパニックを起こす」と説明した。
参加した岐阜県可児市のトリマー、鈴木綾子さん(43)は「チェックシートを活用して地域で啓発したい。日ごろからペットに関わる私たちが積極的に動きたい」と話す。
渡辺さんは「ペットとの防災を進めるには自治体、ペット事業者、飼い主がそれぞれの役割を果たすことが大切。多様なペットを扱うノウハウを持つ事業者が、地域のルール作りや支援体制作りに参加することが重要」と事業者を含めた検討を進めるよう求めている。
◇ペット避難のためのチェックシート
▽居住地の避難所について、ペットの受け入れの可否を知っていますか?
▽被災時にペットを預かってくれる場所はありますか? また、相談していますか?
▽ペットの頭(匹)数分のキャリーケースやクレート(運搬ケース)を保有し、その中で落ち着いて休ませることができますか?
▽飼い主以外の人でも、首輪やリードの付け外し、餌やりや抱っこができますか?
▽住んでいる町の防災訓練に参加していますか?